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パニック障害は、突然現れる不安や恐怖などの精神症状と、息切れやめまい、発汗などの身体症状を伴う精神疾患です。
特定の状況や場所で感じた強いストレスがきっかけとなり、体や心が過剰に反応してしまうことで症状が現れます。
他の病気と鑑別が必要な精神疾患でもあり、検査結果によっては心臓や肺、糖尿病などの治療が必要になるかもしれません。
そこで今回は、パニック障害の原因や症状、検査・治療方法について解説します。パニック障害が及ぼす日常生活への影響についても紹介していますので、似た症状に悩んでいる方やご家族の方はぜひご覧ください。
パニック障害とは?
パニック障害とは、突然の強い不安や恐怖を感じ、次のような身体的な症状が現れる精神疾患です。
- 心拍数の上昇
- 息切れ
- めまい
- 発汗
- 胸の痛み
パニック発作が繰り返し起こり、その結果として次の発作への強い不安や恐怖が続いてしまい、日常生活に支障をきたすレベルになるとパニック障害と診断されます。
発作や恐怖心が起こることを避けようとして、特定の場所や状況を避けるようになるのが特徴です。
パニック障害の原因
パニック障害の原因は明確に解明されているわけではありません。ただ、以下のような要素が関係していると考えられます。
- 遺伝
- ストレス・恐怖心
それぞれ解説していきます。
遺伝
家族にパニック障害や他の不安障害を持つ方がいる場合、パニック障害を発症するリスクが高くなるといわれています。
また、双子を対象とした研究では、遺伝の影響が30〜40%程度あると推定されました。特定の遺伝子がパニック障害の発症に関連している可能性が示唆されています。
しかし、正確な遺伝子は特定されておらず、遺伝子の関連性は研究段階です。
(参照:『不安障害の遺伝研究』)
ストレス・恐怖心
パニック障害は遺伝的要因と環境的要因が相互に作用し、発症につながると考えられています。
特定の状況や場所で強いストレスや恐怖心を経験すると、身体や心が過度に反応しやすくなってしまいます。その経験がトラウマとなり、再び同じ状況でパニック発作が起きてしまうことも。
そのため、遺伝的な要因が懸念される方は強いストレスや恐怖心にさらされる状況をなるべく避けるように注意しましょう。
パニック障害の症状
パニック障害の代表的な症状として以下の3つがあります。
- パニック発作
- 予期不安
- 広場恐怖
どの症状が自身やご家族に当てはまるか、一つずつ確認していきましょう。
パニック発作
パニック発作とは、強い不安や恐怖心が突然襲ってきて、身体的・精神的な症状が短時間でピークに達する現象です。
発作は通常、数分から数十分程度続きます。仕事のプレッシャーや人間関係の問題などが慢性的なストレスとなり、発作のリスクを高めてしまいます。
動悸や息切れ、めまい、発汗、死への恐怖など、身体症状と精神症状が現れる点が特徴です。
予期不安
予期不安とは、パニック発作が再び起こるのではないかという強い不安や恐怖を感じる状態です。実際に発作が起こっていないにもかかわらず、次の発作への恐れが持続するため、日常生活に支障が出てしまいます。
「ここで発作が起こったらどうしよう」という考えが浮かび、外出を控えて人混みや公共交通機関を避けるなどの回避行動につながります。
広場恐怖
広場恐怖とは、強い不安に襲われたときにすぐに逃げられない、または助けが得られそうにない場所や状況に、恐怖や不安を感じてしまう状態です。広場という言葉が入っていますが、広いスペースに恐怖を感じるわけではありません。
自宅から離れた場所や狭い場所など、特定の状況や場所がトリガーになる場合が多く、過去に発作を経験した場所や状況を避けるようになります。
パニック障害の検査・診断基準
・血液検査・尿検査
・心電図・心エコー
・胸部レントゲン
パニック障害の程度を判断するだけでなく、他の病気と鑑別する意味で様々な検査を行います。それぞれの検査について解説していきます。
問診
パニック発作の診断基準として、以下の症状のうち4つ以上が当てはまるか問診の際に確認します。
・発汗
・身震いまたは震え
・息切れ感または息苦しさ
・窒息感
・胸痛または胸部不快感
・嘔気または腹部の不快感
・めまい感、ふらつく感じ、頭が軽くなる感じ、または気が遠くなる感じ
・現実感消失(現実でない感じ)、または離人症状(自分が自分でない感じ)
・コントロールを失うのではないか、または気が狂うのではないかという恐怖
・死ぬのではないかという恐怖
・異常感覚(感覚まひまたはうずき感)
・冷感または熱感※心悸亢進:心臓の鼓動をいつもよりも過度に感じること
また、セルフチェック用のアンケート(PDSS-SRなど)では、精神的・肉体的な自覚症状以外にも、症状が出現する頻度や苦痛の程度、仕事や家庭への支障がどれほど出ているかなどを点数化します。
(参照:自己記入式パニック障害重症度評価スケール)
血液検査・尿検査
血液検査や尿検査は別の病気とパニック障害を区別するために重要な検査です。
例えば、糖尿病の症状である低血糖は、不安や動悸を引き起こすことが知られています。また、バセドウ病(甲状腺機能亢進症)や甲状腺機能低下症でも動悸や不安感が引き起こされるため、血液検査にて血糖値や甲状腺ホルモンが異常でないか確認します。
尿検査を実施して腎不全などの兆候がないか、尿中の糖や蛋白質の量を測定する場合もあるでしょう。
パニック障害だと思っていたら別の病気が見つかる可能性もゼロではありません。
心電図・心エコー
動悸や胸の痛みがパニック発作によるものなのか、心疾患によるものかを鑑別するために実施されます。
心臓に異常がある場合は別の不安を助長しかねないため、不安を軽減させる意味でも重要な鑑別診断といえるでしょう。
胸部レントゲン
動悸や胸の痛みといった症状が、心臓疾患や肺の疾患によるものでないかを確認するために実施する検査です。
肺炎や気胸、肺の腫瘍などの異常がないかを調べ、胸部の症状がパニック発作によるものでなければ循環器科や呼吸器科での診療が必要となります。
上記で説明した検査は、パニック障害の症状を把握するために必要な検査です。重大な合併症が見つかれば専門的な治療が必要となるため、医療機関への相談を検討しましょう。
パニック障害の治療
もしパニック障害で悩んでも、医療機関で治療を受ければ症状の軽減を目指せます。主な治療法となるのは、薬物療法と精神療法です。
それぞれでどのような治療をおこなうのか、違いを確認しておきましょう。
薬物療法
薬物療法は、パニック発作や予期不安を軽減するために実施される治療です。以下のような薬がパニック障害の治療に用いられます。
選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)やセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)が一般的に処方される。
これらは脳内の神経伝達物質のバランスを調整し、不安やうつ症状を軽減させる。
ベンゾジアゼピン系の薬は即効性があり、急性のパニック発作を抑えるのに効果的。
ただし、依存性のリスクがあり、長期間の使用は推奨されない
薬によって効果効能はさまざまです。どの薬を選択して治療を進めていくかは主治医と相談してみてください。正しい服用方法を守って治療を進めていきましょう。
精神療法
パニック障害に実施する精神療法として認知行動療法が用いられています。
他にもさまざまな精神療法が実施されます。
発作に対する恐怖や否定的な思考を特定し、現実的な考え方に再構築する方法。
「発作が起こったら死んでしまう」という考えを「発作は一時的であり、時間が経てば自然に収まる」といった考えに再構築する。
恐怖を引き起こす状況や場所に段階的に直面し、不安に対する耐性を高める技法。
恐怖が生じやすい状況を安全な環境で少しずつ体験することで恐怖の感情を減少させる。
医療機関によっては扱っている精神療法に違いがある場合があります。どの治療を選択できるか、受診する前にリサーチしておくとよいでしょう。
パニック障害患者の家族ができる対処方法
患者様のご家族がパニック障害の症状に直面すると、どう対応してよいか戸惑うこともあるでしょう。
ここでは、患者様のご家族ができる具体的な対処法について紹介します。
パニック障害について理解を深める
パニック障害の症状は個人差があるため、どのような状況でパニック発作が生じるかは人それぞれです。適切な治療を行っていても時には症状が現れてしまうこともあるため、思い悩んでいる方も少なくありません。
だからこそ、一番身近にいるご家族が理解を示し、安心して生活できる環境を整えてあげることが大切です。そのためにもまずは、パニック障害がどのような病気か理解を深めることから始めましょう。
規則正しい生活をサポートする
パニック障害を患っている方は、規則正しい生活習慣を整えることが症状の緩和につながります。発作を予防するためには、ストレスを軽減する取り組みが効果的だからです。
十分な睡眠やバランスの取れた食事、適度な運動がパニック障害の管理に役立つため、取り入れられるようにサポートしてあげましょう。
パニック障害と鑑別が必要な精神疾患
パニック障害以外の精神疾患でもパニック発作によく似た症状が現れる場合があります。患者様ご自身では、悩んでいる症状がどの精神疾患からくるものか、違いを区別するのが難しい場合もあるでしょう。
そこでこの章では、パニック障害と混同されやすい精神疾患を4つ紹介します。なお、それぞれの症状が複雑に絡み合うことも多く、セルフチェックでは判断が難しいこともあります。気になる症状があったら専門医に相談するようにしましょう。
社交不安障害
社交不安障害とは、他人と対面する状況に強い不安を感じ、評価されることや注目されることに対する恐怖を感じてしまう精神疾患です。
顔が赤くなる、震える、汗をかくなどの身体的な症状が現れる点が特徴で、特定の社会的状況や人との接触がトリガーとなります。
仕事や学業、社交的な活動に参加できなくなり日常生活に支障をきたす場合がありますが、不安の原因となる状況が明確であるため、人との接触を最小限にすることで症状が落ち着きます。
強迫性障害
汚染に対する恐怖や、自身が人に危害を加えてしまうのではないかという不安が繰り返し現れる精神疾患です。
「手を1日に何十回も洗ってしまう」「会社に行く前に何度も自宅に戻って施錠の確認をしてしまう」など、強迫観念に対処するように強迫行為を繰り返し行ってしまいます。
一つの行動に時間を費やしてしまったり、行動が制限されたりと日常生活に支障をきたす場合が多いです。
PTSD
暴力や事故、戦争など、過去のトラウマが思い起こされて、発作が生じてしまう精神疾患です。トラウマを思い出す場面に遭遇したり、話をしたりすることが発作のきっかけとなります。
常に神経が張り詰めていて、少しの物音にも過剰に反応してしまうことがあり、睡眠障害やイライラ、アルコール依存症などを併発しやすいです。
分離不安障害
分離不安障害は、親や愛着のある人物と離れること、またはその人物が不在になることに対して強い不安や恐怖を感じる精神疾患です。
学校や職場など特定の人物がついていけない環境では、腹痛や頭痛、吐き気などの身体的な症状が現れます。その結果、学業や仕事に支障が出てしまうのです。
パニック障害が日常生活に及ぼす影響
ここでは、パニック障害が日常生活のどのような場面で悪影響が出るか、具体的な場面を例に挙げて解説していきます。
仕事や対人関係への影響
パニック障害の症状である予期不安により、職場に向かうこと自体が困難になることがあります。広場恐怖によって公共交通機関の利用や人混みに対する不安がある場合、遅刻や欠勤が増えてしまうのです。
また、パニック発作を回避するために同僚や上司とのコミュニケーションを避ける傾向が強まります。コミュニケーションを避けてしまうとチームでの協力や情報共有が難しくなってしまうため、職場で居心地の悪さを感じるようになってしまうでしょう。
この場合、混雑が予想される出勤時間を避ける、在宅勤務が可能な会社や働き方を選択するなど、発作が現れない状況で仕事ができる環境を整えることが重要です。
日常生活の制限
混雑した電車やバスの利用も難しくなってしまうと、移動手段が制限されてしまいます。
さらに、パニック発作が起こりやすい状況を避けるようになれば、自宅や身近な場所が主な行動範囲となってしまい、他者との接触も最低限となってしまうかもしれません。
信頼している方と近隣の散歩から始める、オンライン通話などで他者と交流するなど、徐々に不安に対する耐性を高められるような生活を意識してみましょう。
まとめ
パニック障害は突然の強い不安や恐怖を感じ、身体的な症状も見られる精神疾患です。実際に発作が起こっていなくても、次の発作への恐れが影響し、日常生活に支障が出てしまいます。
放置してしまうと著しく行動が制限されてしまい、仕事や人間関係に悪影響を及ぼしかねません。
福岡天神メンタルクリニックではパニック障害の診断が可能で、適切な治療を提案しつつ日常生活が送りやすくなるようなサポートも実施しています。
福岡天神メンタルクリニックでは専任スタッフによるカウンセリングも行っていますので、気になる症状が見られたら相談してみることから始めてみてはいかがでしょうか。