「仕事の重圧に耐えられず適応障害を発症してしまった」
「自分なりに取り組める治し方を知りたい」
と悩んでいませんか?
適応障害は誰しも発症する可能性があります。適切に治療を進めるのであれば医療機関を受診することが大切です。一方で、治療を効果的に進めるために自分で取り組めることもあります。
本記事では、病院で受ける4つの治療方法をはじめとして下記を解説します。
- 適応障害の概要と症状
- 自分で取り組めること
- 周囲の人ができること
適応障害の治療は主体的に取り組むことが大切です。本記事を参考にして、治療の効果を高める一助としてください。
目次
適応障害とは
適応障害の主な原因はストレスです。仕事や学校、家族関係における「人間関係の不和」「仕事のプレッシャー」「過重労働」などがストレスの原因になります。
他にも引っ越しや転勤、転校などによる環境の変化や、長期的な病気なども適応障害のきっかけとなります。適応障害を改善するにはストレスの原因を特定して、除去または軽減することが大切です。
適応障害の患者様は日本で増加傾向にあります。仕事に関係する場合が多く、労働環境の改善やメンタルヘルスの維持向上が課題です。
治療法や原因については、関連記事「適応障害」でも詳しく解説しています。適応障害への理解を深めるためにぜひ参考にしてみてください。
適応障害の症状
適応障害の症状は「体」「情緒」「行動」に分けられます。
・体がだるく疲れやすい
・肩こりや頭痛、めまいがする
・寝つきが悪いまたは眠れない
・食欲がない
・不安や焦りを感じやすい
・意欲が出ない
・集中できない
・趣味などを楽しめない
・遅刻や無断欠席をしてしまう
・電話に出られない
・暴飲暴食をする
・ケンカしてしまう
仕事がストレスの原因になっている場合は、出勤する前(または職場に到着すると)上記の症状が出て困っているという方もいます。一方、仕事がない日は症状が軽快して元気に見えることも。適応障害は症状に波があるのが特徴です。
適応障害の治し方|医療機関で受ける4つの治療法
医療機関で実施する適応障害の治し方として、次のようなものが挙げられます。
- 環境調整:原因を特定してストレスを除去または軽減する
- 精神療法:ものの考え方や受け止め方を修正する
- 薬物療法:薬を用いて症状の改善を試みる
- TMS治療:適応障害のうつ症状を改善する
それぞれの詳細を解説します。
1.環境調整|原因を特定してストレスを除去または軽減する
適応障害と診断されたらまず環境調整(休職や休学のこと)を試みます。適応障害はストレスを除去、または軽減すると症状が改善する傾向があるためです。
実際に適応障害の原因が「起伏の激しい父親との関わりだった」という20代の女性では「父親が単身赴任をしている際は悩みの頭痛が治まっていた」といった症例もあります。
適切に環境調整を実施するには、ストレスの原因の特定が必要です。原因が特定できたら「一度休職をする」「原因となっている人から離れる」などの対処法を模索します。
例えば、休職する際に診断書が必要な場合は、医師に相談しましょう。診断書があれば精神障害者保健福祉手帳を発行して、就労支援や医療費控除を受けられます。
2.精神療法|ものの考え方や受け止め方を修正する
適応障害によく用いられる精神療法は認知行動療法です。
精神科医や心理療法士とのカウンセリングを通じて、自分の考え方や行動を変化させてストレス耐性を高めます。
例えば、ストレスを感じる事柄に対して「どのような考えと感情が浮かぶのか」「体や行動にどのような影響が出るか」などの反応パターンを認知して、悪循環にならないように修正します。
仕事や家族関係など環境調整が困難である際に「ストレスに対して適切に対処できるようになること」が目標です。
3.薬物療法|薬を用いて症状の改善を試みる
適応障害では薬物療法も選択肢の一つ。下記のような症状に対して薬が処方されます。
【処方される薬】
・ベンゾジアゼピン系抗不安薬
・選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)
【作用】
過度な不安を改善する
【処方される薬】
・ベンゾジアゼピン系睡眠薬
・非ベンゾジアゼピン系睡眠薬
【作用】
寝つきが悪い、眠れないなどの症状を改善する
【処方される薬】
・選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)
・セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)
【作用】
落ち込んだ気分などを改善する
ただし、薬物療法は対症療法的に行われるものであり、根本的な治療にはならないことが多いです。
前提として適切な休養がとても大切です。適応障害の発症の元となったストレス源から距離を置き、十分な休息を確保することで、心と身体をリフレッシュさせながらストレスへの耐性を強化できます。
※症状の程度によっては、薬物療法が最優先となることもあります。
4.TMS治療|脳に磁気刺激を与えて抗うつ効果を発揮する
磁気刺激により脳の神経回路を刺激して、脳の神経活動を正常に整える治療です。
結果として、うつ症状の改善が期待できます。適応障害のうつ症状にも有効とされています。治療は1回15〜30分で、週に数回の治療を数週間から数ヵ月にわたり実施します。
薬物療法で症状が改善できない、または薬を服用したくない方の選択肢の1つです。TMS治療は、既存の抗うつ薬による治療で十分な効果が認められない中等症以上の成人(18歳以上)のうつ病に対してしか保険診療が適用されません。適応障害のうつ症状に対して実施する場合、ほとんどのクリニックでは自由診療になるため注意が必要です。
効果や料金については、関連記事「TMS治療」で詳しく解説していますので、ぜひご参考ください。
適応障害の治し方|自分で取り組める7つの対処方法
適応障害の治し方として、自分で取り組める7つ方法を挙げておきます。
- 原因を特定する
- 周囲の人に相談する
- ストレスの緩和を試みる
- ストレスの対処方法を身に付ける
- 薬に頼りすぎないようにする
- 「治った」と思ったときに注意する
- 無理をせず、少しずつできることから取り組む
適応障害は、専門の医療機関で適切に治療することを推奨します。下記で解説する内容は、医療機関の適切な治療を受けながらも、より良い療養生活を送るための方法と捉えてください。
1.原因を特定する
適応障害の改善は、ストレスの原因の特定から始まります。ストレスの原因の一例は次のようなものが挙げられます。
- 学校や職場、家族における人間関係の不和
- 転校や転勤、引っ越しなどによる環境の変化
- 昇格や出産などによる心身の負担の増加
- 長期的な病気による苦痛
- なんらかのハラスメント
上記を参考にして、自分のストレスの原因は何であるかを考えてみましょう。
2.周囲の人に相談する
強い不安や緊張を感じている際は、自分の気持ちを整理できなかったり、悲観的な考えをしたりすることがあります。このような状況では、自分一人で原因を特定することが困難であることも。
人に相談することで自分の気持ちが整理されて原因を特定できる場合もあるため、信頼できる人に相談することが大切です。周囲の人へ相談が難しい場合は、精神科・心療内科の医師や臨床心理士に話を聞いてもらいましょう。
3.ストレスの緩和を試みる
ストレスの原因を特定できたら、それを緩和できないか検討します。適応障害は、原因を除去すれば改善する場合が多いためです。例えば、仕事に関係する場合は、下記のような対処方法が挙げられます。
- 業務量を調整できないか検討する
- 休職または転職できないか検討する
- 部署異動をお願いする
- 原因となる人と関わらないようにする
仕事上の理由で原因の除去が困難である場合は、ストレスの対処方法を身に付ける必要があります。
4.ストレスの対処方法を身に付ける
適応障害は、原因の除去が困難な場合にストレスの対処方法を身に付けることが有効です。例えば下記のような対処方法です。
- 規則正しい生活をして十分な睡眠をとる
- バランスの良い食生活をこころがける
- 原因となっている人の良いところ見つける
- スポーツなどで体を動かす
- 趣味を楽しむ
- 好きなものを食べる
ストレスへの対処方法は、選択肢が多いほどよいでしょう。ストレスに直面した際に、その時々で最良の選択ができるためです。悲観的な考え方や受け止め方を修正することも効果的。
しかし、自分一人で考え方や受け止め方を修正するのは困難でしょう。修正を試みるには、精神科医や臨床心理士のもとでカウンセリングを受けることを推奨します。
5.薬に頼りすぎないようにする
適応障害と診断されて、薬物療法を実施している方は、薬に頼りすぎないようにしましょう。薬物療法は不安や不眠などの症状を軽減する目的であり、根本的な治療にはならないためです。
根本的な治療をするには、主体的に環境調整や認知行動療法に取り組んでいく必要があります。
6.「治った」と思ったときに注意する
適応障害は「治った」と思ったときに注意が必要。例え担当の医師から「復帰可能」の診断が降りても、数ヶ月後に再休業してしまうことも多いためです。復帰する前には下記のことを再確認しましょう。
- 体力は充実しているか
- 睡眠や食事は十分にとれているか
- 職場の人との関わりは問題なくできそうか
- 職場復帰後に成果を求めすぎてしまわないか
- 相談できる人は作れているか
上記のような復帰への準備が十分にできているかどうかを確認します。適応障害は無理をしないことが大切です。
7.無理をせず、少しずつできることから取り組む
前述した通り適応障害は無理をしないことが大切。職場復帰した際は、下記のような心構えを持つことが重要です。
- まずは最初の1週間出勤を継続する
- 「周囲の忙しさ」「配慮されている立場」「貢献できていない現実」などがあるかもしれないが焦らない
- 本来のパフォーマンスができなくても「今はしかたない」「ゆっくりやっていく」と現状を受け入れる
焦らずにゆっくりと体を慣らしていきましょう。
適応障害の方に対して周囲の人ができる3つのこと
家族や友人などに適応障害を発症している、または「普段と様子が違う」と感じたら下記のような対応を取りましょう。
- 相談に乗る
- 安心して療養できる環境を作る
- 精神科・心療内科の受診を勧めてみる
それぞれ詳細を解説します。
1.相談に乗る
相手の気持ちを聴くことにより、考えが整理されて適応障害の原因や解決の糸口を見出せる可能性があります。
適応障害になりやすい人は、人に相談することが苦手な人もいるでしょう。対応方法がわからないときは、厚生労働省が運用しているこころの耳の相談窓口や仕事に関する相談窓口で、本人や職場の対応方法を相談してみてください。
2.安心して療養できる環境を作る
家族や周囲の人が適応障害を発症したら、安心して療養できる環境を作ることが大切です。また、適応障害はストレスの原因から離れると元気に見え、症状に波があるのが特徴。
本人の甘えなどではないため、無理に指摘をせず、ときに見守ることを心がけましょう。「気の持ちよう」「もっとがんばれ」などの言葉がけはプレッシャーや逆効果を招いてしまう恐れもあるので、注意が必要です。
3.精神科・心療内科の受診を勧めてみる
家族や周囲の人が普段と違う様子が続く場合は、専門の医療機関への受診を勧めましょう。適応障害は、うつ病の一歩手前ともいわれており、5年後には40%以上がうつ病の診断に変わっているという報告もあります。
病院の受診を勧める際は「適応障害」「うつ病」などの言葉は使わずに「ずっと疲れた顔つきだから心配」など、こちらの気持ちを伝えて病院に付き添うことが望ましいです。
(出典:厚生労働省 適応障害/統合失調症)
適応障害に関する2つの疑問
下記の適応障害に関する2つの疑問を解説します。
- ストレスから離れても治らないときはどうする?
- 適応障害は労災認定される?
同様の場面になったときに、適切な行動をとるための参考にしてください。
1.ストレスから離れても治らないときはどうする?
一般的に適応障害はストレスから離れると症状が改善します。ストレスから離れても、下記のような症状が2週間以上続く場合はうつ病を疑ってください。
- ゆううつな気分が続く
- 何をしても楽しめない
- 食欲が出ない
- 眠れないまたは寝つきが悪い
このような状況の場合は、一度精神科医に相談しましょう。
2.適応障害は労災認定される?
適応障害は下記の要件を満たすと労災認定されます。
- 発症する以前の約6ヵ月の期間で業務による強い心理的負担が見られる
- 仕事以外の心理的な負担や個人的な要因により発症したとは認められない
心理的な負担は厚生労働省の業務による心理的負荷評価で評価をします。
(参考:厚生労働省 心理的負荷による精神障害の認定基準について)
まとめ
適応障害の適切な治し方は、ストレスの原因を特定して、除去または軽減できないかを試みること。ストレス耐性を高めるためには、医療機関で認知行動療法を主体的に受けることが大切です。薬による治療は、症状を軽減するものであるため頼りすぎてはいけません。
「原因は何であるか」「環境を変えることはできないか」など自分なりに模索しましょう。また信頼できる人に相談しながら考えを整理することも重要です。
福岡天神メンタルクリニックでは、精神科専門医や公認心理士のもとで、その人に合った治療を進めていきます。どんな小さなことでも気軽にご相談ください。