目次
「なぜ人前に立つと強い不安や恐怖を感じるのだろう」
「自分の性格の問題なのだろうか」
と悩んでいませんか?社会不安障害の原因を理解していないと、自分の性格や気持ちの問題と考えてしまうこともあるでしょう。
本記事では、社会不安障害の原因をはじめとして、次の内容を解説します。
- 発症しやすい人の特徴
- 発症しやすい年代
- 症状
- セルフチェック方法
- 治療方法
社会不安障害の原因について理解することは、適切な治療への一歩となりますので参考にしてみてください。
社会(社交)不安障害とは?
社会不安障害とは、人に注目される場面で過度な不安や恐怖を感じる病気。生涯の有病率は13%程度(7人に1人)で高い割合です。発症すると、人前で話すことや人が多い場所(電車内、繁華街など)で苦痛を感じます。
失敗や恥ずかしい思いがきっかけになったり、思春期に自分の価値を認められなかったりしたことから引き起こされる場合が多いです。適切な治療を進めなければ、徐々に人と会うことや外出を控えてしまう可能性があります。
また、社会不安障害を性格による問題と認識してしまい、適切な治療を受けない場合も多いです。自然治癒するケースは少ないため、正しい知識を身につけて治療を進めることが大切です。
(出典:厚生労働省 社交不安障害(社交不安症)の認知行動療法マニュアル)
社会不安障害の原因
社会不安障害の原因は十分に解明されていませんが、以下のようなことが関係すると考えられています。
- セロトニンの減少
- 養育者との関係性やトラウマ
- 家族間による遺伝
それぞれ解説します。
セロトニンの減少
要因の一つが、脳内で分泌する神経伝達物質(セロトニン)の減少です。セロトニン(心身をリラックスさせるホルモン)が減少すると、緊張や不安を過剰に感じてしまい、社会不安障害が引き起こされやすくなります。
セロトニンが減少する理由は生活習慣の乱れなどです。セロトニンの分泌を促すために、栄養バランスのよい食事や適度な運動習慣、規則正しい睡眠習慣などを心がけましょう。
養育者との関係性やトラウマ
社会不安障害は、父親や母親などの養育者との関係性やトラウマが関与しています。実際に社会不安障害の傾向にある人は、養育者からの養育態度が「愛情が少なく冷淡または過干渉」などの傾向があったという研究もあります。
過去のトラウマも、社会不安障害を引き起こす要因の一つ。「人前で恥をかいた」「人前で失敗した」などのトラウマがあると、社交場面で当時のイメージを想起させてしまい、強い不安や緊張を生じさせることがあるためです。
このような要因がある場合は、自己のイメージの修正やトラウマに対処するトレーニングなどの取り組みが必要です。
家族間による遺伝
社会不安障害に限らず不安症(パニック障害など)は、遺伝的要因が影響されると考えられています。実際に九州大学心理学研究の社交不安症者の人的資源に着目した臨床心理学的支援に関する文献研究によると、以下のような記載があります。
両親が不安症であった場合の傾向
不安症の発症要因は遺伝が2〜4割、環境が6〜8割と考えられています。ただし、養育者の関わり方に問題があった可能性もあるため、遺伝するとは言い切れない部分もあります。
社会不安障害になりやすい人の特徴
社会不安障害になりやすい人の特徴は、もともと「真面目」「心配性」な性格の人。または不安を感じやすい人です。社会不安障害は、単なる性格的な問題と認識してはいけません。
性格的な問題と考えてしまうと、受診の機会を失うことに繋がるためです。また「周囲に相談できない」「理解してもらえない」なども治療の妨げの要因です。
社会不安障害の治療を進めるには、本人だけでなく、周囲の人も病気に対する理解を高める必要があります。
社会不安障害を発症しやすい年代
日本不安症学会の社会不安症の診療ガイドラインによると、社会不安障害の発症しやすい年代は以下のように説明されています。
・75%の人が8〜15歳の間で発症するとされ、若年層に多い
・男女比ではやや女性に多い傾向
社会不安障害は、発症年齢の平均が13歳と若いことに加えて、自らの性格的な問題と捉えやすい病気です。放置してしまうと、不登校や引きこもりなどのリスクがあるため早期に適切な治療を受けましょう。
社会不安障害の症状
社会不安障害は、対人関係における症状と体に現れる症状に分けられます。ここからは社会不安障害の症状について解説します。
対人関係における症状
対人関係における症状とは、人に注目される状況で現れる強い不安や恐怖、緊張などのこと。具体的には以下の通りです。
- 人前のスピーチや発表、電話対応などの場面で強く緊張する
- 初対面の人と話すときに強く緊張する
- 恥ずかしい思いをするのではないかと強い不安がある
- 人前で食べたり字を書いたりする場面で強く不安を感じる
以上の症状を回避しようとして、学業や仕事に支障をきたしてしまいます。
体に現れる症状
人に注目される状況になると身体的な症状も現れます。例えば以下のような症状です。
- めまいや吐き気がする
- 声や手足がふるえる
- 息苦しさを感じる
- 顔が赤くなる
- トイレに何回も行きたくなる
重症化すると、強い動悸(どうき:胸がドキドキする症状)や恐怖を感じるパニック発作が起きることもあります。
社会不安障害のセルフチェック方法
以下のような特徴に当てはまる方は、社会不安障害の可能性があります。
②1の状況になったときに、ほとんど毎回強い不安を感じる
③強い恐怖を感じることに対して、自分でもおかしいと思っている
④怖いと思う状況を避けている、もしくは耐えている
⑤不安や恐怖のために学校生活や職場で人付き合いがうまくいかない
強い不安というのは、心臓がバクバクして「このまま死んでしまうのではないか」というぐらい恐怖を感じるなどの様子を指します。
このような症状が長期間(典型的には6ヵ月以上)続いているのであれば、社会不安障害の可能性があります。性格的な問題と考えず一度受診を検討しましょう。
社会不安障害の治療方法
社会不安障害の治療方法には、精神療法と薬物療法があります。最適な治療方法を選択するためにも、患者様だけでなくご家族も治療方法について理解することが大切です。
精神療法
精神療法の中でもよく選択肢に上がるのが認知行動療法です。認知行動療法とは、ものの受け取り方や考え方に働きかけて、自分の気持ちを楽にする精神療法です。
具体的な認知行動療法の内容は以下の通りです。
- 社会不安に対する心理的な教育
- 自己イメージを見直すためのビデオフィードバック
- 問題となっている社交場面のトラウマに対処するトレーニング
- 恐れている状況への段階的な取り組み
認知行動療法は個人または集団で実施する方法があり、いずれにしても約3〜4ヵ月の取り組み期間が必要です。
薬物療法
社会不安障害の薬物療法で使用される代表的な薬は以下の通りです。
【一般名】
・フルボキサミンマレイン酸塩(さんえん)
・パロキセチン塩酸塩水和物(えんさんえんすいわぶつ)
・エスシタロプラムシュウ酸塩
【効果】
脳内のセロトニンを取り込む機能を妨げて、セロトニンの濃度を高める
【一般名】
ミルナシプラン塩酸塩
【効果】
脳内のセロトニンとノルアドレナリン(緊張や不安に関係するホルモン)を取り込む機能を妨げて、セロトニンとノルアドレナリンの濃度を高める
選択的セロトニン再取り込み阻害が第一選択の薬です。薬物療法を検討する際は、医師から十分に効果と副作用についての説明を受けましょう。
社会不安障害の人との関わり方
社会不安障害の人が身近にいる場合は、関わり方で注意すべきことがあります。
家族や周囲の人からすると辛そうに見えないかもしれません。
しかし、社会不安障害は「性格の問題」ではありません。
「気の持ちよう」と誤解しないようにしましょう。
「本人の心の準備」を大切にしましょう。
社会不安障害の治療を進めるには、ご家族や周囲のサポートも大切です。「本人のペース」に合わせて治療を進めましょう。
社会不安障害の予後
社会不安障害の症状の改善率は、さまざまな研究があります。日本不安症学会の社会不安症の診療ガイドラインに記載されている研究を一つ紹介すると、以下のように示されています。
いずれにしても社会不安障害は、自然に改善する確率が30〜40%と低いため早期の治療が大切です。
社会不安障害と合併しやすい病気
社会不安障害と合併しやすい病気は以下の通りです。
- その他の不安症
- うつ病
- 気分変調症(きぶんへんちょうしょう)
- アルコール依存症
それぞれ解説します。
その他の不安症
社会不安障害の他に以下のような不安症があります。
特定の状況や対象に限らず、
・学校
・仕事
・家族
・友達などあらゆることに不安を感じてしまう病気
社会不安障害と診断された人のうち、約7割の人がほかの不安症を併存(同時に発症)していたというデータもあります。
うつ病
社会不安障害が慢性化して、うつ病を合併(ある病気にともない発症する病気)する人もいます。うつ病とは、悲しくゆううつな気分が長期間続く病気。社会不安障害と同じで、脳のセロトニンなどの分泌が減少することで引き起こされます。
社会不安障害が続くと、自分に自信がもてなくなってうつ病になる場合が多いです。また、社会不安障害と診断されていた人のうち、約5割の人がうつ病を併存していたというデータもあります。
気分変調症
気分変調症とは、うつ病ほど重度ではないが、抑うつ(ゆううつな気分や落ち込んだ気分)が続く病気。抑うつ気分が2年以上かつ1日中見られるのが特徴です。
うつ病と同様に社会不安障害が慢性化して、気分変調症を引き起こす可能性があります。また、社会不安障害と診断されていた人のうち、約4割の人が気分変調症を併存していたというデータもあります。
アルコール依存症
アルコール依存症とは、繰り返し多量の飲酒を続けた結果、アルコールに対して依存してしまった状態。「飲酒をしたい」という強烈な欲求により、飲酒へのコントロール力を失ってしまいます。
そのため、1日の大半の時間を飲酒に使ってしまう状態が続くのが特徴です。社会不安障害が慢性化して、アルコール依存症を合併するケースもあります。
社会不安障害と間違われやすい病気
似たような症状が現れるため、社会不安障害と間違われやすい病気があります。例えば、以下の病気です。
- 全般性不安障害
…不安や心配事が頭から離れない - パニック障害
…突然めまいや吐き気、息苦しさを感じる - うつ病
…人との関わりを回避する - 摂食障害
…人との食事を回避する
以上のような症状が自分または周囲の人に見られたら、自己判断せずに医師に相談することが大切です。
まとめ
社会不安障害が発症する原因は、セロトニンの減少や養育環境、社会環境、遺伝などさまざまな要因が絡んでいます。そして、社会不安障害は自然治癒が少ない病気です。
「自分の性格の問題」「気の持ちよう」と考えてしまうと、慢性化して他の病気を合併するリスクがあります。自分や周囲の人に疑われる症状が見られたら、早期に適切な治療を始めることが大切です。
福岡天神メンタルクリニックでは、専任カウンセラー(精神科専門医や公認心理士)のもと、社会不安障害の疑いのある症状やお悩みについてカウンセリングを受けられます。
本格的な治療を受けるべきか気持ちが固まっていない段階でも相談可能です。気軽に受診を検討しましょう。