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社交不安障害では、人前に立つことに恐怖や不安を感じ、日常生活に支障をきたすことがあります。しかし、性格や気持ちの問題ととらえ、病院への受診に抵抗を感じる方も少なくありません。自分で症状を改善したいと考える方もいるのではないでしょうか。
本記事では、社交不安障害の自力でできる治し方や、病院での治療法を解説します。社交不安障害について理解を深めることで、治癒への一歩を踏み出せるはずですよ。
社交不安障害とは
社交不安障害(SAD)とは、不安障害の一種です。ときには「あがり症」と呼ばれることもあります。人前で注目が集まるような状況で、不安や恐怖、緊張を強く抱き
「失敗を犯して、恥ずかしい思いをするのではないか」という強い不安や心配を感じることが特徴です。
自分でも過剰に反応していることをわかっているものの、恐怖や不安な気持ちを抑えられず、次第に外出や人と会う機会を避けてしまうなど、日常生活に支障を来たします。しかし、病気ではなく、性格や気持ちの問題ととらえられてしまうことも。
社交不安障害は、10代半ば~20代前半で発症することが多く、進学や就職などの人生の大事な場面でつまずいてしまう可能性があります。生涯有病率は、約10%~16%と頻度が高い病気といえるでしょう。
社交不安障害の原因
社交不安障害の原因は、いまだに明確にはわかっていません。現在は、以下に挙げる要因が影響していると考えられています。
- 遺伝的気質
- 脳神経系
- 育ってきた環境
- 人前で恥をかいた経験
ここからは、それぞれの要因についてみていきましょう。
遺伝的気質の影響
社会不安障害を含む不安症は、遺伝的気質の影響を受けると考えられています。社交不安障害がある方の両親や子ども、兄弟姉妹は、社交不安障害を発症する割合が2倍~6倍高いという報告も。
幼児の頃に、見慣れないもの・人に出会ったときに逃げたり、泣いたりする行動をとるのは気質によるものと考えられており、この気質がある幼児が10代になると、社交不安障害を発症しやすいとされています。
脳神経系の影響
セロトニン神経系やドーパミン神経系の異常によって、社交不安障害を発症しやすいという研究結果が出ています。これらの神経系は、意欲や喜び、不安といったさまざまな感情に関わっているため、バランスを崩すと不安や意欲低下を感じやすくなるのです。
社交不安障害の方は、何らかの原因で神経系のバランスが崩れている可能性があります。なかでも、恐怖や不安を和らげる作用をもつセロトニンの低下が影響していると考えられています。
育ってきた環境の影響
社交不安障害の発症は、育ってきた環境に大きく影響を受けています。実際に、幼少期に虐待を受けた経験があると、社交不安障害の症状が強まるといわれているのです。
また、過度なしつけや過保護を受けたり、両親が子供に対して無関心で、心の支えがなかった環境で育ったりしたことも原因となりうるでしょう。
人前で恥をかいた経験
社交不安障害は、過去に人前で恥をかいたり、バカにされる出来事を経験したりなどの、過去のトラウマが原因で発症することもあります。
過去の経験が脳裏に思い出されて、他人と接するのを怖がる原因になるのです。
社交不安障害の症状
社交不安障害では、以下に挙げる症状が起こります。
- 極度の緊張
- 赤面
- 大量の発汗
- 動悸
- 息苦しさ
- 震え
- パニック発作
また、自分の言動が周囲から変だと思われていないか心配で仕方ないのも、社交不安障害の症状の一つです。「もし恥をかいてしまったらどうしよう」という強い不安(予期不安)が募り、そういった場面を避ける回避行動を起こします。
回避行動がひどくなると、職場や学校に行けなくなったり、家から出られなかったりするようになるため、注意が必要です。なかには、うつ病を併発し、社会機能の低下を引き起こすことも。
ほかにも、過度な不安や自意識過剰が原因で、他者との接触を避ける回避性パーソナリティ障害や、アルコール依存症を併発することもあります。
これらの症状のうち、自分に当てはまるものがある場合は、まずは医療機関に相談してみましょう。
社交不安障害が出やすい場面
社交不安障害による不安や恐怖が出やすい場面の例は、以下のとおりです。
- 人前に立ってプレゼンテーションをおこなう
- 周囲の人にあいさつをする
- 電話をかける・出る
- 公共の場での飲食や会食
- 人前で字を書く
- 目上の人と話す
- 異性とデートする
「失敗したらどうしよう」など自分が大事にしている場面で、社交不安障害の症状が出やすいでしょう。
社交不安障害と間違えられやすい病気
社交不安障害を診断するにあたって、ほかの病気と区別する必要があります。区別が必要な病気は、以下のとおりです。
- うつ病
- 統合失調症
- 自閉症スペクトラム
- パニック障害
ここからは、社交不安障害と間違えられやすい病気について詳しくみていきましょう。
うつ病
うつ病とは、脳内の神経伝達物質のバランスが乱れてしまい、心身にさまざまな不調が現れる病気のことです。
- 1日中気分が落ち込んでいて、何をしても楽しめないといった精神症状がある
- 不眠や食欲不振、疲れやすさなどの身体症状が現れ、日常生活に大きな支障が出ている
このポイントに当てはまるときは、うつ病を疑いましょう。うつ病でも社交不安障害と同じく、家の中に引きこもる場合があります。
社交不安障害では、特定の場面や状況で症状が出るのに対して、うつ病では毎日、1日中症状が出るのが大きな違いです。またうつ病では、食事が摂れない、疲労感が強いといったほかの症状からも、鑑別できるでしょう。
社交不安障害では、うまくいかなかった場面を脳内で繰り返し思い出し、自責や自己嫌悪を抱くことがあります。すると抑うつ気分が強くなり、症状が悪化してうつ病を併発してしまうことが考えられます。
統合失調症
統合失調症でも、他人から見られることを恐怖を感じるケースがあるため、社交不安障害との区別が必要です。
統合失調症とは、考えや気持ちがまとまらなくなる状態が続き、幻覚・妄想などさまざまな症状が現れる精神疾患をさします。幻覚や妄想といった代表的な症状がみられる前に、不安や神経過敏などが現れることが特徴です。
統合失調症と社交不安障害は、発症する年齢も重なっています。ただし統合失調症は、非現実的な考えや被害妄想、幻聴なども現れるため、他人から見られることへの恐怖以外のほかの症状を確認することで、社交不安障害と鑑別できます。
自閉症スペクトラム
自閉症スペクトラムの方でも、社交不安障害の方と同じく、他人と接するのを怖がることがあります。
ただし、自閉症スペクトラムの方の場合、症状に悩む原因はコミュニケーション能力や相手の感情を読み取る能力から起因している場合があります。一方で社交不安障害では、不安や恐怖によって他人との接触を怖がるという違いがあります。
パニック障害
パニック障害は、特に身体に異常がないのに、突発的に激しい動悸やふるえ、冷や汗、息苦しさなどの、パニック発作を起こしてしまう病気をさします。社交不安障害と同じ不安障害の一つです。
社交不安障害では、人前で話すなどの特定の場面で緊張や恐怖を感じる一方で、パニック障害では、場面に関わらずパニック発作が起き、日常生活に支障をきたすという違いがあります。
また、パニック障害患者の15%~30%が、社交不安障害を発症するという報告も。そのため診断では、2つの病気の症状が重なっているケースも考慮されます。
社交不安障害の治し方5選
大前提として、社交不安障害の治し方の基本は、精神科・心療内科での治療です。しかし、社交不安障害をはじめとした不安障害を抱えている方のなかには「病院に行かずに自力で治したい」「薬に頼らない治し方をしたい」と考える方も多いでしょう。
ここからは、自力でできる社交不安障害の治し方を解説します。ただし、我慢して過ごしていても治るとは限らないため、早期の治療を受けるのがおすすめです。
1.腹式呼吸をおこなう
腹式呼吸をおこなうことで、自律神経が安定します。社交不安障害の方は、過度な緊張状態にあり、運動した後のように息が上がっていたり、呼吸が早く浅かったりすることが。腹式呼吸によって副交感神経優位へ導くことで、身体の緊張状態が緩んでいくでしょう。
①背筋を伸ばして椅子に座り、目を閉じてお腹に手を当てる
②口からゆっくり息を吐きながら、3秒数える
③3秒数えながら鼻から息を吸う
呼吸をする際に、お腹に当てた手が上下するかどうかを確認しましょう。1~3までを5分~10分おこなうとより効果的です。
2.身体を意識的にリラックスさせる
意識的に身体の一部に力を入れ、すぐ力を抜く動作によって、リラックスする感覚を味わえます。腕や肩、背中や足など、さまざまな部分でおこなえるので、ぜひ試してみてください。
②一気に身体の力を抜き、身体がじんわり温まる感覚を20秒程度味わう
身体に力を入れるときは、呼吸を止めたり、痛みや疲れを感じるほど力を入れたりしないように注意しましょう。心地よいと感じる程度でおこなうことが大切です。
この方法は漸進的筋弛緩法(ぜんしんてききんしかんほう)とも呼ばれています。
3.カフェインを含む飲食物を控える
社交不安障害による症状を和らげたい方は、カフェインを含む飲食物を避けることをおすすめします。カフェインには、交感神経を刺激し、脳を緊張させる作用があるからです。
個人差はありますが、カフェインの覚醒効果は7時間程度続くといわれています。コーヒーや緑茶、紅茶を他の飲食物に置き換えましょう。
4.規則正しい生活を送る
毎日決まった時間に食事や睡眠をとることも、社交不安障害の症状を緩和させる方法の一つです。生活リズムを整えると自律神経が安定しやすく、症状緩和につながるでしょう。
また、生活の中に適度な運動をとり入れると、脳がリラックスすることがあります。精神を安定させる効果のあるセロトニンの代謝がうながされ、不安の軽減が期待できるでしょう。ウォーキングや階段昇降などの軽い運動でも、継続することが大切です。
5.成功体験を積み重ねる
社交不安障害の治し方として、失敗しにくい環境をあらかじめ用意して、成功体験を積み重ねるのも有効です。
話しやすい人や環境を慎重に選択し、実際に交流することで「そこまで怖くなかった」「顔が赤くなっても、すぐに症状が引いた」という成功体験を増やすのです。
成功体験により交流への不安や恐怖が薄れるとともに、自信を持てるようになるため、社交不安障害の改善へと進むでしょう。
社交不安障害が自力で治らなかったときの治療法
社交不安障害の重症化が進むにつれ、日常生活での回避行動が増えてしまうため、できるだけ早く精神科・心療内科で治療を受けることを推奨します。
病院での治療の基本は、薬物療法と精神療法です。過度な不安を軽減すること、回避行動を減らすことを目的としておこなわれます。治療の効果を実感できるまでの期間に個人差はありますが、数ヶ月以上は必要となるため焦らず治療に取り組みましょう。
ここからは、病院でおこなわれる治療法について解説します。
薬物療法
薬物療法とは、薬の服用を通じて不調の改善を目指す治療です。薬を使うことに抵抗を示す方も多いかもしれません。しかし精神療法だけに頼らず、薬物療法も並行することで、症状の緩和を期待できます。
ここからは、社交不安障害の薬物療法で使われる薬について解説します。
SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)
社交不安障害の薬物療法では、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)という抗うつ薬が最初に使われることが多いです。
8週間~12週間服用することで、5割~6割の方で社交不安障害の症状が改善するといわれています。
即効性に欠け、効果が出る薬の量を飲み始めてから効果を実感できるまでに、最短でも2週間~3週間必要とします。しかし、効果が出るまで焦らずに飲み続けることが大切です。
また、服用により症状が軽快しても、脳内セロトニン濃度は安定していないため、自己判断で中断すると社交不安障害を再発するおそれがあります。
症状が改善されても6ヶ月〜1年以上服薬を続けることが大切です。副作用として、吐き気や下痢などの消化器症状が現れやすいので、注意しましょう。
ベンゾジアゼピン系抗不安薬
ベンゾジアゼピン系抗不安薬は、脳の活動を抑制するGABAという成分の働きを強め、不安や緊張を和らげる作用が期待される薬です。抗不安薬の服用によって、不安が収まるだけでなく、動悸や発汗、赤面などの症状を抑える効果も期待できます。
30分~1時間で効果が現れ、日常生活に支障が出るほど不安や緊張が強まる場面で、頓服薬として使われる薬です。ただし、長期的に毎日服用していると依存性が生じるため、できるだけ短期間の服用に留めるのが望ましいでしょう。
βブロッカーまたはαβブロッカー
βブロッカーやαβブロッカーは、アドレナリンβ1とβ2受容体をブロックして、交感神経の活性化を抑える薬です。飲んで30分~1時間で効果が表れるため、緊張する場面の前に服用することで、動悸や震えや発汗、赤面などの症状を緩和できます。
震えが特に強い場合は、α1受容体とβ1受容体を遮断するαβブロッカーが効果的です。不安感が特定の場面に限定されている方に有効といわれています。低血圧や徐脈、抑うつなどの副作用に注意しましょう。
精神療法
精神療法(心理療法)は、人との交流を通じて症状や苦痛に介入する治療をさします。自身の考え方を見つめ直し、心をコントロールできることを目指す治療です。社交不安障害の治療では、認知行動療法がおこなわれることが多いでしょう。
認知行動療法では、考え方を見つめ直し、固まって狭くなった視野や行動を修正していきます。気持ちが大きく動揺したときに浮かんだ思考(自動思考)に目を向けて、現実との食い違いを検証し、思考のバランスをとっていく治療です。
精神療法は薬物療法とは異なり、副作用の心配が不要な点がメリットといえるでしょう。
まとめ
社交不安障害には、呼吸法や規則正しい生活などの自力で治す方法もありますが、重症化してしまうと、日常生活に支障が出てしまいます。そのため、できるだけ早めに精神科・心療内科での治療を受けましょう。
福岡天神メンタルクリニックでは、薬物療法・精神療法のほかTMS治療(経頭蓋磁気刺激法)もおこなっています。TMS治療とは、専用の医療機器を用いて、脳に繰り返し磁気刺激を与えることで、特定の脳の活動を変化させる治療のことです。
自由診療ではありますが、薬物療法・精神療法での治療で症状をうまくコントロールできていない方におすすめです。社交不安障害を性格や気持ちの問題だと考えず、一度ご相談ください。