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繰り返し浮かんでくる不快な思考と、それを打ち消すために行う反復行動に悩まされる「強迫性障害」。
一見すると個人の癖やわがままにも見えてしまう不合理な行動ですが、個人では制御が難しい精神疾患の一種であり、日常生活にも支障をきたす病気です。
安心を得るために儀式的な行動を取る病気ですが、日常的に繰り返すことで症状の悪化につながってしまうかもしれません。
そこで今回は、強迫性障害の診断方法やその後に行われる治療法、ご家族でもできる強迫性障害患者への接し方について解説します。どのような症状が現れるか正しく理解し、適切な治療の選択できるきっかけとしてみてください。
強迫性障害とは?
強迫性障害とは、繰り返し起こる望まない思考(強迫観念)や、それを打ち消すための反復行動(強迫行為)に悩まされる精神疾患です。
これらの思考や行動が過剰または非合理的であると認識していても制御することが困難で、強迫観念と強迫行為によって日常生活や仕事場面で支障をきたす場合があります。
強迫性障害の診断方法
強迫性障害の代表的な診断方法として以下の2つがあります。
- ICD-11
- DSM-5
どちらも強迫観念や強迫行為などの定義を定めており、時間的基準や障害の程度などで診断していくものです。以下で詳しく解説していきます。
ICD-11
ICD-11は国際疾病分類の第11版を意味し、4項目から強迫性障害かどうかを診断します。項目とそれぞれの診断基準は以下の通りです。
・無視・抑制したり、別の思考や行動で中和しようとする努力が見られる
・不安や苦痛を軽減するため、または恐れている事態を防ぐために行われる
・少なくとも数週間続く
・家族的
・社会的
・教育的
・職業的または他の重要な機能領域で著しい障害をもたらす
DSM-5
DSM-5は、アメリカ精神医学会による精神疾患の診断・統計マニュアルの第5版を指します。
- 強迫観念、強迫行為、またはその両方の存在
- 時間と障害の基準:強迫観念や強迫行為に費やす時間が1日1時間以上
- 他の精神疾患や薬物の影響によるものではない
- 症状が他の精神疾患によってよりよく説明されない
(例:摂食障害における食事に関する強迫的思考)
ICD-11にはなかった、薬物や他の精神疾患の影響がないかも診断の基準となります。
強迫性障害になりやすい人の特徴
強迫性障害は、特定の性格傾向や環境要因がリスクを高める可能性があります。
- 完璧主義な傾向が強い
- 過度の責任感がある
- コントロール欲求が強い
これらの性格傾向が強い方は強迫性障害になりやすい点を理解しておきましょう。また、ご家庭によっては幼少期に厳しくしつけられ、強迫観念や強迫行為が助長されるケースもあります。
強迫性障害の5つのチェックポイント
強迫性障害の傾向が強いか、自身で確認できる5つのチェックポイントがあります。
正確な診断は心療内科などでしてもらう必要がありますが、自身でチェックすることで受診のきっかけとなる可能性があるため、確認してみましょう。
・自宅を出てから、鍵やガスの元栓の閉め忘れ、電気を消したか気になってしまう
・自分が誰かに危害を加えたなど、やっていないことを繰り返し考えてしまう
・以前の自分が当たり前にできていたことでも、多大な時間と労力がかかってしまう
・順番通りになっているか、左右対象になっているかが異常に気になってしまう
強迫性障害の症状
強迫性障害の症状は、大きく分けて強迫観念と強迫行為の2つに分類が可能です。どちらの症状も自身では制御が難しく、日常生活に支障をきたしてしまいます。
自身や家族に当てはまる症状がないか、ぜひご覧になってください。
強迫観念
強迫観念とは、個人の意思に関わらず、繰り返し浮かんでくる不快な思考や衝動、イメージを指します。
自身では制御が難しく反復性や持続性、不合理性などで苦痛を感じる点が特徴です。何をしていても不安を呼び起こす思考が割り込んできてしまい、日常生活に著しい支障をきたします。
強迫行為
強迫行為とは、強迫観念によって引き起こされる不安を和らげるため、繰り返し行われる行為を指します。
「手を1日に何十回も洗ってしまう」「会社に行く前に何度も自宅に戻って施錠の確認をしてしまう」などが特徴的な行動です。
これらの行動により一時的な安心感を得られますが、長期的に見ると症状をより加速させる可能性があります。以下で、強迫行為の詳細を説明します。
不潔恐怖・汚染恐怖
不潔恐怖(汚染恐怖)は、汚染や病気への過度な恐怖が強迫観念となり、行動に至ってしまう状態です。手すりやドアノブ、公共のトイレなど、多くの人が触れる場所や箇所への接触を過度に恐れてしまいます。
その他にも、他人と握手したり、物を受け取ったりすることに不安を感じます。その結果、何度も手を洗い、皮膚が荒れるほどにこすり洗ってしまうのです。
物理的な接触がなくても、不道徳や不純と感じる人や場所との接触で自分が汚染されたと感じることもあります。
加害恐怖
加害恐怖とは、自分が他人や自分自身に危害を加えてしまうのではないかという心配を感じる状態を指します。他人を傷つけたいという欲求があるわけではなく、むしろそのような行為を恐れ、避けようとするのが特徴です。
愛する人や見知らぬ人を傷つけるイメージが繰り返し浮かんでしまう、または実行してしまうのではないかという恐怖心を抱いてしまいます。
さらに、車の運転中に誰かを轢いてしまうのではないかと強迫観念が浮かび、運転ができなくなってしまう方もいるほどです。
確認恐怖
確認恐怖は、特定の行動や状況を繰り返し確認せずにはいられない強い衝動を感じる状態です。自分の記憶や感覚を信頼できないという精神状態から生じると考えられています。
ドアや窓の施錠はしてあるか、電気を消したかなどを繰り返し確認しないと気が済まず、周囲の人に何度も同じ質問をして安心を得ようとします。
儀式行為
儀式行為とは、特定の行動や思考を厳密な順序や方法で繰り返し行おうとする行為です。特定の順序で体の部位を洗う、電気のスイッチを何度もオン・オフするなど、日常生活を送る上で一つの動作に多くの時間を費やすことになります。
不安を軽減したり恐れている事態を防ごうとしたりする行動ですが、症状を悪化させる要因となるため、徐々に抑えていかなければなりません。
数字へのこだわり
特定の数字や数字のパターンに過度に注意を向けたり、それらに特別な意味を見出したりする症状です。
ドアノブを決まった回数回さないと不安になる、歯を磨く時に必ず決まった回数ずつブラッシングするなど、数字に関連した強迫観念と強迫行為を伴います。結果、一つの行動に多くの時間を費やさなければならず、生活に支障が出てしまうこともあるでしょう。
物の配置・対称性へのこだわり
物の配置・対称性のこだわりは、物事が「ちょうど良い」状態や完全な対称性を保っていないと強い不安や不快感を感じる症状です。物事が正しく配置されていないという強迫観念と環境を整えたいという強迫行為を伴います。
家具が壁や他の家具と完全に平行でないと不安になる、デスク上の文房具を常に特定の角度や位置に置くなど、物の配置を完璧にするために多くの時間を費やすことになってしまいます。
ここまで説明した強迫観念や強迫行為は、強迫性障害の症状の一部にすぎません。このような症状に悩んでいる場合、専門的な治療が必要となるため医療機関への相談を検討しましょう。
強迫性障害の治療
強迫性障害の治療方法には以下の3つがあります。
- 薬物療法
- 精神療法
- TMS治療
それぞれの治療法について解説していきます。
薬物療法
薬物療法は強迫性障害の治療において第一選択となる治療法です。患者様によって効果的な薬剤や用量が異なるため、効果が現れるまでに4〜12週間かかるとされています。また、再発を防ぐために1〜2年以上の継続治療が必要です。
副作用として起こりうるのは次のような症状です。
- 吐き気
- 食欲不振
- 頭痛
- 不眠
- 性機能障害
- 口渇
- めまい
副作用が持続する場合は医師に相談して調整をしてもらいましょう。
セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)
セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)は強迫性障害の第一選択薬です。脳内のセロトニンレベルを調整することで、強迫性障害の症状軽減に効果があります。
強迫観念と強迫行為の頻度と強度を減少させるほか、不安やうつ症状の改善、全般的な生活の質の向上を図るために使用します。
抗精神病薬
抗精神病薬は主に統合失調症やその他の精神病性障害の治療に使用されます。特に難治性の強迫性障害の治療において補助的に用いられることがあります。
単独療法ではなくSSRIとの併用で服用することが特徴です。標準的なSSRI治療で十分な反応を示さない患者に対して、強迫観念や強迫行為の頻度や強度の減少を目的に処方します。その他にも、不安症状の軽減やうつ症状の軽減などの効果が期待できるでしょう。
抗不安薬(精神安定剤)
抗不安薬は強迫性障害の主要な治療薬ではありませんが、特定の状況下で補助的に使用される薬です。主に急性の不安症状の緩和に効果があり、強迫性障害に伴う強い不安を一時的に軽減するために用いられます。
短期的な症状管理に使用され、第一選択薬(SSRI等)の効果が現れるまでの橋渡し的な役割を担います。パニック発作や強い不安感の緩和、不眠の改善などが期待できるでしょう。
通常2〜4週間程度の短期間の使用が推奨され、突然の中止は避けて徐々に減薬していきます。
精神療法
精神療法は、単独または薬物療法と組み合わせて実施されます。その中で、暴露反応妨害法と森田療法が一般的な治療法です。
暴露反応妨害法
暴露反応妨害法とは認知行動療法の1つであり、患者が恐怖や不安を引き起こす状況に段階的に直面させ、強迫行為を抑制することを学ぶ治療法です。
繰り返しの暴露により、徐々に不安や恐怖を減少させ、強迫観念や行為の必要性を低下させる狙いがあります。病院での治療だけでなく、自宅などで自主的な暴露練習を行うとより効果が期待できるでしょう。
森田療法
森田療法は、日本の精神科医である森田正馬氏によって開発された精神療法です。治療は次の4段階で構成されています。
- 絶対臥褥期(安静に過ごす期間)
- 軽作業期
- 重作業期
- 社会復帰期
症状や感情を押さえ込むのではなく、あるがままを受け入れて共存するすべを学んでいく治療法です。
TMS治療
経頭蓋磁気刺激(TMS)は、比較的新しい脳刺激療法です。磁気を使って脳の特定の部位の活動を変化させることで、うつ症状の緩和が期待できます。
薬物療法で思うような変化を感じられなかった方、持続的な薬の服用に抵抗がある方などにとって、新たな選択肢となるでしょう。
強迫性障害患者の家族ができる接し方
強迫性障害は、100人いたら1〜2人程度の割合で罹患すると考えられており、特別珍しい病気ではありません。ご家族が強迫性障害と診断され向き合い方に悩んでいる方も多くいるかもしれません。
そこでここからは、患者様のご家族に向けた接し方のアドバイスをお伝えします。
強迫性障害について理解を深める
強迫性障害の症状は個人によって大きく異なります。ご家族から見て不安になってしまう症状もあるかもしれませんが、これは単なる癖やわがままではありません。症状をコントロールすることが困難であり、簡単にやめられない点に思い悩んでいる方も少なくないでしょう。
だからこそご家族ができることとして、精神疾患の一種である点に理解を示し、寄り添うように接してあげてください。
改善を目指せる環境づくりを行う
強迫性障害は不安や恐怖を感じる状況になると症状が現れやすくなります。そのため症状の改善を目指せる環境づくりを手伝っていけるとよいでしょう。
まずは症状を悪化させる要因を特定し、段階的に強迫行為をしなくてもよい状況に慣れることを目指していきます。徐々に慣れていくのがポイントで、初めから完全に除去する必要はありません。
まずは症状を悪化させる要因を特定し、段階的に強迫行為をしなくてもよい状況に慣れることを目指していきます。徐々に慣れていくのがポイントで、初めから完全に除去する必要はありません。
また、患者さんの言動を批判や非難せずに、症状に対する不安を気軽に話せる雰囲気を作ってあげることも重要です。安心して生活できる環境を作れれば、強迫性障害の症状を緩和させる手助けとなるでしょう。
まとめ
強迫性障害は、何度も繰り返さずにはいられない苦痛を伴う精神疾患です。自分やご家族に疑わしい症状が見られた際には、早期に適切な治療を始めることが大切です。
強迫性障害の診断にはICD-11やDSM-5などが用いられますが、自身でも強迫性障害の症状が出ていないかチェックすることができます。
福岡天神メンタルクリニックでも、強迫性障害と思われる症状についてお話をうかがい、診断をおこなっています。適切な治療を提案し、日常生活が送りやすくなるようなサポートも実施しています。
確定診断がされることで不利益があったらどうしようと心配される方もいるかもしれません。しかし早期に治療を開始し、カウンセリングで気持ちを話せる場を作れることは症状の改善につながります。
福岡天神メンタルクリニックでは専任スタッフによるカウンセリングも行っていますので、気になる症状が見られたらまずはご相談から始めてみてください。