「ベッドに入ると脚がむずむずして気持ち悪くて寝つけない」
「十分な睡眠がとれず、仕事や家事などの日常生活に支障が出ている」
という場合、むずむず脚症候群かもしれません。
むずむず脚症候群の症状を「気のせい」と考えるのではなく、正しい治し方を知って日常生活に活かすことが大切です。今回の記事では、むずむず脚症候群の原因や症状、自分でできる対処法や治療法を解説します。
目次
むずむず脚症候群とは
むずむず脚症候群の正確な医学的名称は、下肢静止不能症候群(レストレッグス症候群)です。患者からの最も多い訴えが「脚がむずむずする」という症状のため、むずむず脚症候群と呼ばれています。
脚を中心とした異常な感覚で、寝ているときやリラックスしているときに、脚に違和感を抱いたり「脚を動かしたくてたまらない」という強い衝動が生じたりする感覚障害です。人によっては、腰や背中、腕、手などの全身に症状が現れることも。
むずむず脚症候群の患者は、日本に200万~400万人ほどいると推定されています。男性よりも女性のほうが約1.5倍有病率が高く、年齢を重ねるごとにむずむず脚症候群に悩む人が増えるのが特徴です。
なお、関連記事「むずむず脚症候群」でもこの病気の原因や治療法を紹介しています。むずむず脚症候群について理解を深めたい方はぜひ関連記事もご参考ください。
むずむず脚症候群の症状
脚がむずむずするという訴えのほか、次のような不快感によって、脚を動かさずにはいられない強い衝動に駆られます。
- 脚をかきむしりたくなる
- ほてる
- 痛かゆい
- 虫が這っているような感じ
むずむず脚症候群の症状が増悪するのは、夕方や夜間です。
また、安静にすることで症状がひどくなり、運動によって改善するのも特徴の1つ。脚を動かしたい衝動に駆られるとじっとしていられなくなり、脚を絶えず動かしたり立ち上がって歩き回ったりしたくなります。
そのため、夜間に症状が出ると寝つきを悪くする原因となり、日常生活にも支障をきたします。また、脚が周期的に無意識的に動き続けることも多く、睡眠の質を低下させます。
むずむず脚症候群の原因
むずむず脚症候群は、原因がはっきりとわからない一次性(特発性)のものと、ほかの病気や薬が原因と考えられる二次性のものに分けられます。ここからは、むずむず脚症候群の原因をみていきましょう。
1.ドパミン神経の異常
脳内の神経伝達物質であるドパミン神経がうまく働かなくなることで、むずむず脚症候群の症状が現れるという説が有力です。体内でドパミンを作るためには鉄分が使われているため、鉄分不足によってドパミンの量が減少し、情報伝達がスムーズにいかなくなると考えられています。
2.遺伝による影響
むずむず脚症候群の有病率には遺伝がかかわっているという研究結果があり、実際に病気に関係する遺伝子が複数見つかっています。45歳以前にむずむず脚症候群の症状が現れた人の約3割で、家族にも同じように脚の不快感を訴える人がいるという報告も。
また、第1度近親者(父母、兄弟、子供)にむずむず脚症候群の患者がいる人の有病率は、いない人の3~5倍と報告されています。
3.ほかの疾患との合併
二次性のむずむず脚症候群は、以下の病気が原因として考えられます。
- 慢性腎不全
- 鉄欠乏性貧血
- 糖尿病
- パーキンソン病
- 胃の切除から4~5年
- 関節リウマチ
- 甲状腺機能異常
- うっ血性心不全
また、ビタミンBや葉酸などの栄養不足のときに起こることも。
さらに、鉄分が不足しやすい生理中や妊娠中にむずむず脚症候群を訴える女性も多く、妊婦のむずむず脚症候群患者は、一般人口よりも2~3倍多いとされています。
セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)やセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)などの抗うつ薬は、むずむず脚症候群の症状を引き起こす可能性があります。
一方、三環系抗うつ薬などの抗うつ薬は、脳内のセロトニンを増やす作用があるため、むずむず脚症候群の症状を悪化させる可能性があります。
自力でできるむずむず脚症候群の治し方
自力でできるむずむず脚症候群の治し方は「これまでの生活習慣を見直して整えていくこと」といえます。ここからは、自力でできる具体的な対処法をみていきましょう。
1.バランスのとれた食事を心がける
鉄分やビタミンD、マグネシウム、葉酸が体内で不足すると、むずむず脚症候群を引き起こすおそれがあるため、これらの栄養素を意識して食事に取り入れましょう。特に、女性は生理中や妊娠中に鉄分が不足しやすいため、意識的な摂取が必要です。
(レバー、あさり、ほうれん草など)
・ビタミンD
(きくらげ、いわし、かつおなど)
・マグネシウム
(ひじき、ほうれん草、アーモンドなど)
・葉酸
(鶏レバー、ブロッコリー、ほうれん草など)
また、たんぱく質やビタミンCは鉄分の吸収率を高めることから、バランスのよい食事を心がけるとよいでしょう。病院では、血液検査の結果次第で鉄剤の投与もおこなわれます。
2.カフェイン・アルコール・タバコを控える
むずむず脚症候群に悩んでいるなら、コーヒーや紅茶、チョコレートなどに含まれるカフェインを控えるのがおすすめです。
カフェインは、覚醒作用によって寝つきを悪くしたり眠りを浅くしたりするだけでなく、ドパミンの生成に必要な鉄分の吸収を妨げるためです。
また、アルコールやタバコは、むずむず脚症候群による症状を悪化させるといわれているため、こちらも控えましょう。
3.適度に運動する
むずむず脚症候群は、運動不足や運動のし過ぎによって不快な症状が悪化するとされています。ウォーキングなどの軽い運動を心がけましょう。
また、運動後や寝る前にストレッチやマッサージを取り入れて、脚の筋肉をほぐしたり、血流を改善したりすることが大切です。
4.睡眠環境を整える
自律神経と睡眠は密接に関わってるため、毎日決まった時間に就寝・起床するよう心がけましょう。また、寝室の室温や湿度を一定に保つことで、不快感を軽減できることが近年明らかになってきました。
寝る前はできるだけ明かりを暗くし、ブルーライトを浴びるスマホやパソコンなどの使用を控えてください。
5.ツボを押す
むずむず脚症候群の症状を和らげるには、ツボ押しが効果的です。ツボを押すことで、自律神経の乱れ改善や血行改善、ストレス緩和などの効果が期待できます。特に症状があるときにマッサージをして楽になる人は、効果を上げるために血流を促進するツボや、睡眠の悩み解消が期待できるツボを押すとよいでしょう。
【場所】
足首の内側、内くるぶしの骨から指4本分上にある
【期待できる効果】
血流を促し、全身に栄養が行き渡るようにサポート
※陣痛を促すツボでもあるため、妊娠中は避ける
【場所】
手の甲側の、人差し指と親指の骨が交わる手前、人差し指側にある
【期待できる効果】
緊張した筋肉を柔らかくし、痛み全般に効果が期待できる
【場所】
足の裏、かかとの中央にあるくぼみ
【期待できる効果】
血液や体内の水分の循環を促し、自律神経を整える
ゆっくりと息を吐きながら気持ちいいと感じる力加減でツボを押し、息を吸いながら力を緩めてください。左右両方ともおこないましょう。
病院でのむずむず脚症候群の治し方
むずむず脚症候群の症状が軽い場合は、これまでに紹介した生活習慣の改善でよくなることもあります。一方で症状が強い場合は、薬物療法を組み合わせることで症状の緩和が期待できます。ここからは、むずむず脚症候群の治療法についてみていきましょう。
1.薬物療法
生活習慣の改善による効果がみられないむずむず脚症候群は、薬物治療で改善が期待できます。まずドパミン作動薬が選択され、十分に効果が得られない場合は抗てんかん薬が用いられます。
2.むずむず脚症候群の原因となる病気の治療
むずむず脚症候群は、原因が明らかになっていない一次性(特発性)のものと、ほかの病気や薬が原因と考えられる二次性のものに分けられます。糖尿病やパーキンソン病、鉄欠乏性貧血など、原因となりうる病気の治療も並行しておこないましょう。
3.TMS療法(磁気刺激療法)
うつ症状を改善させる抗うつ薬や抗精神病薬は、むずむず脚症候群を発症させたり悪化させたりする可能性があります。うつ症状を伴うむずむず脚症候群に対しては、TMS治療も有効な手段の一つです。
TMS治療とは、専用の医療機器で脳にくり返し磁気刺激を与えて、特定の脳の活動を変化させる治療です。ただし、TMS治療はむずむず脚症候群に効果があるかどうかは、まだ明らかになっていません。
むずむず脚症候群に悩んでいる方は、ぜひ一度福岡天神メンタルクリニックにご相談ください。
また、この治療方法の詳細は関連記事「TMS治療」でも紹介しています。治療を検討する際の参考にしてみてください。
脚がむずむずして眠れない時の対処法
脚がむずむずして眠れない時は、以下の対処法を試してみてください。
- 脚をマッサージする
- シャワーや入浴で脚を温める
- 脚の熱感が強い時は、アイス枕や冷却剤で冷やす
- 起き上がって30秒~1分脚を動かす
- 部屋の湿度が高い場合は、40%~70%を目安に調整する
ご自身に合った方法を見つけてくださいね。
むずむず脚症候群になりやすい人とは?
むずむず脚症候群になりやすい人の特徴を押さえておきましょう。
- 鉄欠乏性貧血や糖尿病の治療をしている
- 慢性腎不全で透析治療を受けている
- 妊娠中や更年期の女性である
- 中年~高齢者である
- 日常的に喫煙や飲酒、カフェインの摂取をしている
- 運動不足を自覚している
- 家族のなかにむずむず脚症候群を発症した人がいる
当てはまる項目がある方は、まずは生活習慣を見直すことをおすすめします。
むずむず脚症候群と間違われやすい病気
むずむず脚症候群の適切な治療を受けるためには、ほかの病気との区別がとても大切です。ここからは、むずむず脚症候群と間違われやすい病気について解説します。
1.アカシジア(静座不能症)
アカシジアは、おもに抗精神病薬による副作用で「じっとしていられない」「手足がむずむずしてつらい」という症状が現れます。座ったままでじっとしていることが難しく、そわそわと動き回ってしまうストレス対処行動がみられます。
むずむず脚症候群は夕方から夜間にかけて脚を中心に症状が現れるのに対して、アカシジアでは一日中全身的に症状がみられることが多いといわれています。
2.不眠症
むずむず脚症候群は脚の不快感から睡眠に悪影響を及ぼすため、不眠症と判断されやすい病気です。夜に十分な睡眠をとれないため、仕事や学業などの日常生活に支障が出てしまう状態を不眠症と呼びます。
- 入眠困難:寝つきが悪い
- 中途覚醒:眠りが浅く途中で何度も目が覚める
- 早朝覚醒:早朝に目覚めて二度寝ができない
難治性の不眠症の10%~20%は、むずむず脚症候群が原因ともいわれています。日中はむずむず脚症候群の症状が治まることも多いため、病院を受診しても「気のせい」だといわれたり、睡眠薬が処方される場合があります。
睡眠薬の服用では、むずむず脚症候群の根本的解決にはならず、むしろさらに状況が悪化することも。不眠症を引き起こしている原因がむずむず脚症候群であることを突き止めて、その原因にきっちり対処していくことが重要です。
3.坐骨神経痛
お尻から足の後ろ側にかけての痛みやしびれ、麻痺などの症状を坐骨神経痛と呼びます。坐骨神経痛でも脚の不快感や痛みが現れるため、むずむず脚症候群と間違えられやすいでしょう。
4.皮膚疾患
皮膚疾患が悪化すると、不快な感覚で患部をかきむしりたくなることがあります。むずむず脚症候群でも、脚の不快感を解消するためにかきむしりたくなることがありますが、こちらの不快感は皮膚の表面ではなく、深部の筋肉や骨の付近から生じているように感じられるという特徴があります。
5.うつ病
うつ病では、日常生活に悪影響を及ぼすほどの気分の落ち込みや、意欲の低下がみられます。むずむず脚症候群は、夕方から夜にかけて脚に不快感などの異常な感覚が現れる病気です。睡眠不足によって、日中に過度な眠気を引き起こすことも。症状が悪化すると、うつ病やパニック障害、不安神経症などの精神疾患を合併する可能性があります。
むずむず脚症候群で受診する目安
むずむず脚症候群で受診する目安は、以下に挙げるような症状のせいで日常生活に支障をきたしたときでしょう。
- いったん眠っても脚がむずむずして起きてしまう
- 睡眠不足のために、日中にぼーっとしたり気分が落ち込んだりする
- じっとできなくなり、電車や飛行機に乗っていられない
- 疲労感がひどい、集中力が保てない
- イライラしやすくなった
- 手や背中、腹部もむずむずしてつらい
- 脚に痛みがある
脚を動かすことで不快な症状は一時的に緩和するため、病院に行かずに我慢してしまう人も少なくありません。しかし、つらい症状は我慢せずに受診してくださいね。
むずむず脚症候群は何科にかかるべき?
脚の不快感やピリピリとした痛みがあり、むずむず脚症候群かもしれないと思ったら、脳神経内科や精神科、心療内科への受診をおすすめします。
精神科や心療内科では、鉄分不足やドパミン低下などを検査できるため、適切な治療法を提案可能です。
むずむず脚症候群に悩む方は、睡眠に関する悩みや気分の落ち込みを抱えているケースも多いですが、病状に応じて専門医による治療を受けられます。
むずむず脚症候群の診断基準
むずむず脚症候群の診断基準には次のようなものが挙げられます。
- 足を動かしたいという強い欲求があり、その欲求が不快な脚の異常な感覚にともなって生じる
- 静かに横になったり座ったりしている状態で、症状が現れたり増悪したりする
- 歩いたり、脚を伸ばしたりするなどの運動によって改善する
- 日中よりも夕方や夜間に症状が増強する
むずむず脚症候群の診断は、患者自身の訴えをもとにおこなうため、症状が似ている病気と区別する必要があります。
足の不快感を正確に伝え、ほかに治療中の病気があれば併せて医師に相談することが大切です。日頃から症状の記録をとっておくと、受診の際に役に立つでしょう。
まとめ
むずむず脚症候群では、脚に走る不快な感覚から睡眠障害に悩まされます。十分に休めていないため、日中の集中力の低下や気分の落ち込みが現れることもあるでしょう。
規則正しい生活習慣や睡眠環境を見直し、喫煙や飲酒、カフェイン摂取を控えることで改善が期待できるケースも多くみられます。
しかし、日常生活に支障があるほどの睡眠障害があるなら、精神科・心療内科での治療がおすすめです。福岡天神メンタルクリニックでは、患者様一人ひとりに合わせて適切な治療法を提案しています。つらい症状に悩んでいる方は、ぜひ一度ご相談ください。