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日常生活の中で、漠然とした不安や突然の激しい恐怖に襲われたことはありませんか?
「不安神経症」と「パニック障害」は、どちらも強い不安感に苦しむ疾患ですが、それぞれ異なる特徴があります。不安神経症は日常的な心配が慢性化するのに対し、パニック障害は突然のパニック発作が特徴です。
本記事では、不安神経症とパニック障害の違い、それぞれの原因・症状・治療法について詳しく解説します。自分の症状を正しく理解し、適切な対処法を見つけましょう。
不安神経症の特徴
ここでは、不安神経症の特徴について詳しく解説します。
1.不安神経症の原因
不安神経症の原因は、まだ完全には解明されていません。しかし、主に以下の要因が影響していると考えられています。
- 遺伝:家族に不安の傾向がある場合、自分も不安になりやすいことが研究で示されている
- 脳の働き:脳の神経伝達物質(セロトニンやノルアドレナリンなど)のバランスが崩れることで、不安を感じやすい状況を引き起こすことがある
- ストレス:幼少期のトラウマや大人になってからの慢性的なストレスが引き金になり発症することがある
3つの要因が複雑に絡み合って不安神経症を引き起こす可能性が高く、原因を一つに特定するのは難しいとされています。
2.不安神経症の症状
不安神経症は、持続的な不安や心配が日常生活に影響を及ぼす疾患です。主な症状は、以下のとおりです。
- 常に心配している:将来や健康のことなどが頭から離れず、具体的な根拠がなくても心配が絶え間なく続く
- 身体的症状:ドキドキする、汗をかく、手足が震える、集中できないなどの身体的反応が見られる
- 生活への影響:不安や心配が原因で仕事や勉強への集中力が低下し、人間関係が上手くいかなくなる
これらの症状は持続的なことが特徴であり、パニック障害のような突発的な発作とは異なります。
3.不安神経症の診断基準
不安神経症の診断基準となる主なポイントは、以下のとおりです。
- 6カ月以上続く過度な不安:心配や不安が6カ月以上にわたって続き、日常生活に支障をきたしている
- 複数の症状がある:落ち着きのなさ、疲労感、集中力の低下、睡眠障害など複数の身体的・精神的症状が見られる
- 日常生活への影響:症状が日常生活や仕事に重大な支障を及ぼしている
近年では不安神経症に代わって「全般性不安障害」という診断名が一般的に使用されていますが、両者は同じ症状を指しています。
(出典元:厚生労働省e-ヘルスネット)
パニック障害の特徴
ここでは、パニック障害の特徴について、詳しく解説します。
1.パニック障害の原因
パニック障害になる原因も、完全には解明されていません。以下のような複数の要因が影響し合いながら、パニック障害を引き起こすと考えられています。
- 遺伝:家族にパニック障害や他の不安障害があると発症のリスクが高まることから、遺伝的要因が関与している可能性がある
- 脳の働き:脳内の神経伝達物質(セロトニンやノルアドレナリンなど)のバランスが崩れると、不安や恐怖が過剰に引き起こされることがある
- ストレス:仕事のプレッシャーや人間関係、大きなストレス・トラウマが発症の引き金になることがある
一部の薬物やカフェインの過剰摂取が、パニック発作を誘発することもあります。
2.パニック障害の症状
パニック障害の主な症状は、予測不能な突然の恐怖感(パニック発作)です。発作が起こると、強い恐怖感とともに身体的な症状が急激に現れます。
- 突然の恐怖感:予期せぬ状況で急に「心臓が止まるのではないか」といった強烈な恐怖に襲われる
- 身体的症状:発作中は心拍数の増加、息切れ、発汗、震えなどが出現する
パニック発作は通常数分から30分ほどで落ち着きますが、その間は苦しい思いをします。不安神経症のような慢性的な心配や不安とは異なり、突然の症状が日常生活を妨げる点が主な違いです。
3.パニック障害の診断基準
パニック障害の主な診断基準は、以下のとおりです。
- 繰り返されるパニック発作:予測できないタイミングで激しい恐怖感に襲われる発作が何度も起こる
- 発作への持続的な不安:次の発作がいつ起こるのかと心配し続け、不安が生活を支配する
- 回避行動:発作を避けるために特定の場所や状況を避けるようになり、生活の質を低下させる
自分が不安神経症やパニック障害かもしれないと悩んでいる方は、まずは医療機関に相談してみましょう。
不安神経症とパニック障害の治療法
不安神経症とパニック障害は症状の出方や特徴が異なるものの、共通する治療法があります。ここでは、主な治療法を見ていきましょう。
1.認知行動療法
- 考え方を変える:ネガティブな思考を現実的でポジティブな考え方に修正することで、不安を軽減する
- 行動を変える:避けていた場所や状況に少しずつ慣れることで、新しい行動パターンを身に付ける
このような手法で不安神経症やパニック障害をはじめとする心身の不調に働きかけます。
例えば「絶対に失敗する」と思い込むのではなく「うまくいく可能性もある」といった現実的な見方に変えていくことで、自分の思考と行動パターンを見直します。
2.暴露療法
- 段階的な暴露:最初は少し怖いと感じるところから始め、徐々に恐怖心を感じやすい状況に慣れていく
- 専門家のサポート:専門家のサポートのもと、進められるよう調整される
研究によると、暴露療法を行うことで、パニック発作の発生率や不安の強さが低下したことが報告されました。
(出典元:Salkovskis, P., Hackmann, A., Wells, A., Gelder, M., & Clark, D. (2007).Belief disconfirmation versus habituation approaches to situational exposure in panic disorder with agoraphobia: A pilot study. Behaviour Research and Therapy, 45(5), 877-885.)
3.薬物療法
以下のような薬によって脳内の化学物質のバランスを調整することで、症状の緩和が期待できます。
- 抗不安薬:不安感を和らげる効果がある
- 抗うつ薬:不安や抑うつ症状を改善する効果があり、持続的な治療が期待できる
症状の程度が重い場合や、心理療法のみでは効果が得られない場合に使用されます。
4.心理教育
- 病気の知識:不安神経症やパニック障害の特徴や治療法について理解を深める
- 日常生活のアドバイス:病気と上手に付き合っていくためのアドバイスを受ける
正しい知識を持つことで自分の症状と向き合う力がつき、治療効果の向上が期待できます。
5.生活習慣の改善
生活習慣の改善も、治療の効果を高める上で重要です。
- 規則正しい生活:睡眠と生活リズムを保つことで、心身のバランスを維持する
- バランスの取れた食事:バランスの取れた食事を心がけ、体調を整える
- 適度な運動:軽い運動を取り入れることでリラクゼーション効果が得られる
不安神経症とパニック障害は治療法が共通しており、患者の症状や状態に合わせて方法が検討されます。
不安神経症とパニック障害の日常生活における3つの注意点
ここでは、不安神経症とパニック障害の日常生活における注意点について解説します。
1.ストレスに対処する
ストレスは不安神経症やパニック障害の症状を悪化させる大きな要因です。ストレスを適切に管理することは、症状の改善や予防に欠かせません。例えば次のような習慣で、ストレスに対処しましょう。
- リラクゼーションの導入:深呼吸や瞑想、ヨガなどで心身をリラックスさせる
- 趣味の時間を作る:自分が楽しめる趣味を見つけ、生活に取り入れる
- ストレス源の特定:ストレスの原因になるものを特定し、対処を考える
パニック障害の診断を受けた成人を対象とした研究によると、ヨガと認知行動療法の組み合わせの相乗効果で、より良い治療効果が得られたことが示唆されています。
(出典元:Vorkapic, C. F., & Rangé, B. (2014).Reducing symptoms of panic disorder: An exploratory study of yoga program alone and in combination with cognitive-behavioral therapy. Journal of Psychiatric Practice, 20(6), 437-442.)
リラクゼーションや自分に合った活動を取り入れることが、症状の悪化を防ぐポイントです。
2.生活リズムを整える
不規則な生活は、心身のバランスの乱れにつながります。規則正しい生活リズムの維持を心がけましょう。
研究によると、作業療法を通じた規則的な生活習慣の維持により、パニック発作の頻度や重症度が減少したと示唆されています。
(出典元:American Occupational Therapy Association. (2014). Occupational therapy practice framework: Domain and process(3rd ed.). American Journal of Occupational Therapy, 68(Suppl. 1), S1–S48.)
習慣化することで身体の調子が整い、不安感やパニック発作の頻度を減らすことが期待できます。
3.家族や周囲のサポートを得る
家族や友人、周囲の人とのコミュニケーションは、心の安定に大きく影響します。以下の2つが大切です。
- 周囲の人に理解を求める:自分の病気について家族や友人に説明し理解を求めると支援を受けやすくなり、治療へのモチベーションが維持できる
- サポートグループの活用:同じような悩みを抱える人と交流することで、孤立感が軽減できる
不安神経症やパニック障害は、治療と同時に日常生活での注意点を守ることが大切です。再発を防ぐためにも、継続して生活習慣に気を配りましょう。
不安神経症とパニック障害に関するよくある質問
ここでは、不安神経症とパニック障害に関するよく寄せられる質問に対する回答をまとめました。
Q:不安神経症は完治しますか?
A:不安神経症は適切な治療を受けることで症状が改善し、日常生活に支障をきたさない状態にまで回復することが可能です。しかし、完治かどうかは個人差があり、症状の重症度や治療への反応によって異なります。
多くの場合、認知行動療法や薬物療法などを組み合わせることで、症状をコントロールできるようになります。
Q:不安神経症を自力で治す方法はありますか?
A:不安神経症を自力で治すことは難しいですが、症状を軽減するための自己管理は可能です。日常生活でのストレス管理、リラクゼーション、規則正しい生活などが重要です。
ただし、症状の悪化や生活への支障が出た場合は、専門医にご相談ください。
Q:不安神経症かどうかチェックできる方法はありますか?
A:インターネット上には、不安神経症のセルフチェックリストなどが存在します。しかし、あくまでも参考程度だと考えてください。
正確な診断は、精神科医や心療内科医による診察や評価に基づいて行われます。自己判断せず、専門医のアドバイスを受けましょう。
Q:不安神経症とうつ病との違いを教えてください
A:不安神経症とうつ病は症状が重なる部分もあり、区別が難しいことがあります。しかし、主な症状には違いがあります。
- 不安神経症:未来の出来事に対する過度な心配や不安が特徴
- うつ病:悲しさ、無気力感、やる気の低下など、持続的な抑うつ状態が特徴
ただし、不安神経症とうつ病は併発することも多く、どちらか一方の症状のみが出るというわけではありません。正確な診断と適切な治療が重要です。
まとめ
不安神経症とパニック障害は、強い不安や恐怖に悩まされる病気です。不安神経症は漠然とした不安、パニック障害は突然の激しい恐怖が特徴です。
どちらの症状も、適切な治療を受けることで改善が期待できます。薬物療法や認知行動療法など一人ひとりに合った治療を受けるとともに、ストレス管理や規則正しい生活を送ることが大切です。
自分は不安神経症やパニック障害かもしれないと悩んでいる方は、まずは専門医へ相談してみてください。
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